映画「恋人たち」 橋口亮輔監督
数年前かなり話題になっていて、タイミングを逃してみていなかった一本。
今年の頭にアップリンク吉祥寺(だった気がする)でも再上映されていて、Googleカレンダーにも予定入れておいたのに行けなかったのでレンタル。
モノローグ含めて、セリフがすごく自然。
伏線回収大好きな私だけど、日常会話ってこういう意味のない単語とかつっかかりとかあるよなぁと感じる、その人たちが存在しているなと感じる言葉づかいでした。
”飲みこめない感情を、飲みこめないまま生きているひとたちの、その感情を描きたい”とは予告編等での監督の言葉なのだけど、感情って本当にひとつじゃなくてふたつでもなくて、ごちゃまぜなんだなと。人って実は分かりやすく表情を変えないし、言葉だって、思っていることが100%言えるわけでもないし、真逆のことを言っていることもあるし。意味がないなぁって思いながらも伝える言葉もあるし、ごまかすために饒舌になることもある。
何度か見返すとまた違う感情に出会えるのかもしれないと思った。
あまり先入観なく見た方がいいかなと思いました。
ーネタバレありー
- 主人公の一人アツシ 冒頭のセリフ
「人っていろんな決心をして生きていくと思うんですよ」「そのときそのとき、小さな決心を積み重ねて」
自宅での事情聴取中、婚姻届書いているときのことを思い出しながら話しているシーン。アツシの優しい声と話し方が、ああ、幸せだったんだなぁこの人、この人たちってじんわり伝わってくる。一瞬差し込まれる「陳述書」を打ち込むパソコンの画面とのちぐはぐ感。
- ふさぎ込むアツシに声をかける職場の同僚の台詞
「お母さんが、うちにおいでよって。うちで一緒にテレビ見ようって」
「お母さんにありがとうって言っておいて」
適度な距離感で自分なりに心配している同僚が自然、なんだけど、いそうでいないかもしれない。相手を過度に心配するでも元気出せっていうでもない感じ。すごく優しいシーン。お母さんも自分がしていて楽しいなって思うことを一緒にしようって素直に言える人。そしてこれをいろいろ分かってありがとうと受け止められるアツシって優しい人間で、全部自分の中に吸収してしまう人なんだろうなと思った。
- 損害賠償請求の訴訟を断られて絶望したアツシが仕事に行かなくなって、上司の黒田さんが家にくるシーン
「犯人を殺したい」と自分の気持ちを話すアツシに対して、「殺しちゃだめだよ。殺したら、こうやって話せなくなるでしょ。それは嫌だよ。わたしはあなたと話をしたいと思っているよ」という黒田さん。
アツシの吐露が切なくてやり場がなくて測り知れなくて。どうしていいのか本人もわからないしどうにもならないって思っている。黒田さんだってこの言葉がアツシの気持ちを楽にするなんて思ってないだろう。そう思ってもこうとしか言えなくて、どうにかあなたのこと気にかかってるよ大事だよって伝えたくて、出た言葉。それもアツシもわかってる。言葉の限界を感じる。
黒田さんの言葉はありふれたものかもしれないけれど、このタイミングでこの言葉を言ってくれる人がいることって、すごいことで。現実でどれだけあるんだろうと考えてしまった。言葉は大事だけど、それだけでもダメで、そばにいることや内容じゃなく話すことにも意味がある。DoingよりBeingって誰かが言っていたのを思い出した。
- 内容とはちょっと違うかもしれないけれど、思ったこと。
自分が苦しいと思ったとき、自分のことを大事だと思ってくれる人がいる、話ができるひとがいるっていうことが、どれだけ人を生かすか。
そういう存在っていそうでいなくて、お互いに作っていくことが大事で、きっと結婚したりしたくなるのは、家族がそれに一番似ていて分かりやすいからなんじゃないかな、と思った。…んーでもこれって当たり前のことか。そりゃそうだって感じ。
アツシはそういう大事な人を突然亡くしてしまった。犯人はつかまっても怒りの矛先はないし、仕事ができなくなって保険料支払もままならない。でも、職場の人たちも義理のお姉さんも共有してくれる人が気にかけてくれる人がいる。それをわかっていても手を取れないし浮上できないくらいの絶望をアツシは抱えているのだけれど…。
弁護士の四ノ宮はずっと好きで大事な人がいるけど叶わない相手。今の恋人に対しても所有物みたいに付き合っていて、見ていて悲しかった。きっと、四ノ宮は恋人を好きな人の代わりとしか見られなかったのかもしれない。人を傷つけてしまう人って、自分が傷ついていることもたくさんある。それでも、四ノ宮が他の誰かを大事に思えるようになったらいいなと思う。
主婦でお弁当屋さんのパートをしてる瞳子さん。夫と姑と3人暮らし。2人からはかなり雑に扱われているが、本人は淡々と日々を過ごしている。私の人生って…って悩んでもいいはずなのに、大好きな雅子様のビデオを夜な夜なみては、パート先でも友人もいるし、なんかおおらかというか、ちぐはぐな感じ。でも、人に対して変に疑わない。(疑った方がいい場面でも)だから、絶望しきらない。小説も絵も書いたり、好きなものがある人って強い。
- アツシの義理のお姉さんのシーンがすごく印象的だった。
話し方も明るくてコミカルで、いい意味でちょっと変わった人。
笑いながら、苦しそうに、泣きながら、婚約者と別れた話をする。
「妹が殺されて、振られたの。友達も妹もいなくなったの」って。
泣くのを我慢しようとしてしきれない、涙はこぼれていて、でも顔は笑おうとしていて、声色は変に明るくて、震えていて、嗚咽していて。
婚約者との関係がどれだけ安心できるものだったか、かけがえのないものだったか。
いろんな大事なものをいっぺんになくしてしまったときの苦しさは何色なんだろう。
おかしいなぁって、信じられないなぁって、でもどうしたらいいのかなぁって、
分かりたくない実感がないけどただただ悲しい苦しい。そんな感情が溢れていたシーンだった。苦しかった。
女子アナ役の内田慈さん、やっぱり好きでした。
ラストにかかるAkeboshi「Usual Life」
イントロのピアノがきれいでそのまま音源買いました。
Akeboshi - Usual Life (Special ver.)
ままならないけど、苦しいけど、また観返したい一本。